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ライト・プリセットカンパニー。

「今すぐこの傘を持って○○駅に向かえ、だってさ」
 とある日の午後7時くらいだっただろうか。いきなり姉にそう言われて、一本の傘を渡された。
「はあ? なんでこんな時間に」
 姉の言葉の意味がわからず、俺は聞き返す。
「なんでって、占いでそう出てるから」
「またそれかよ……」

 俺の姉が占いに没頭し始めてから、はや一年になる。どれだけ没頭しているかといえば、有名な占い師の本を読み漁る程度では飽き足らず、自分で占星術やら何やらを研究し、深く追求していくほどであった。その結果、完成度自体はともかく、姉はオリジナルの占星術を編み出してしまっていた。ただ、それにしてもこれが意外とよく当たる。とはいえ、当たり方が微妙なのである。
 というのも、だ。「家の西方に吉報あり」という結果が出たからと言い出して、家の西方にあたるものすべてを徹底的に探索させられたときは、無くしたと思っていた爪切りが見つかったり。いや、まあ見つかってよかったんだけどさ。
 他にも「帰り道を変えてみるといいことがある」と言われたときは、その日の昼から普段の帰り道で比較的大規模な道路工事が始まっていたり。いや、まあ道を引き返さなくて済んだけどさ。
 なんと言えばいいのだろうか。確かに姉の言う通りにしていれば、大抵の場合は、いいことがある。あるっちゃあるのだが、どうも、うん。ちょっとショボイ、というか。ご利益を感じづらい、というか。
 そして、今回も微妙なご利益を得るために、半ば強制的に姉の御八卦に従うことになるのである。いや、別にいいんだけどね。多少なりともいいことはあるのは確かなんだろうし、どうせ暇だし、言うこと聞かなきゃ姉怖いし。

 というわけで、傘を持たされ、家を放り出された。天気は雨で、実際に自分が使う傘とは別に、姉が渡した傘を鞄にしまう。
 傍から見れば「傘を忘れたから駅まで持ってきてくれないか」と親から頼まれたみたいなシチュエーションだし、実際そうなんだろうと思った。最寄りの○○駅までは家から徒歩十分くらいで着くので、勤務帰りの親父も駅から家までは歩いて帰るのだ。だから今回の姉の占いは、親父が傘を忘れたことに対する予言的なものではないかと踏んでいた。
 と、踏んでいた。

 けど。

 駅に向かう途中、俺は親父に電話をかけてみた。姉の占いは当たっているのか、というより、本当に親父は傘を忘れているのかどうかを確かめるために。
 そして、帰ってきた返答は、
「傘? ああ、大丈夫大丈夫。ちゃんと天気予報見てたから」
 ……あれ?
 姉の占いは親父の傘忘れの予言ではなかったんだろうか。だとしたら、あの占いが指していたこととは、いったいなんだったんだろう。自分の予想が外れ、それ以外の考えも用意していなかったので、占いに対する答えが気になり始めた。そのせいか、駅に向かう足も、少しずつではあるが速まっていった。
 足を進めながらいろいろ思索を繰り返していくうちに、いつしか自分の目には目的地である駅が移っていた。
 とりあえず、行ってみなければわからない。そう思いながら、駅の階段を登りきったときであった。

 知ってる顔が見えた。
 見えたのは、そう、高校のクラスメートで、友達で、俺の好きな、北沢、北沢美月。そんな彼女は、駅の窓から外をうらめしそうに眺めていた。

 これだと思った。

「北沢さん?」
 無心で声をかけた。このときは、なぜか緊張も躊躇もしなかった。
「あ、大野くんじゃない」
 意図しないところで、意中の人と話をする。普段の俺ならどれだけテンパっていただろうか。そもそも、今日の俺はなぜ普段の俺ではないのだろうか。頭が真っ白になってないし、言葉にも詰まっていない。
 いつもいつも、彼女と話すときは緊張しっぱなしで、余裕なんて全くなかった。だけど今はどうだ、普通に、話ができて楽しい。傘を貸す、という『きっかけ』を持っているということがどれほど作用しているのか、はっきりとはわからなかったが、確実にそれが精神の拠り所となっているのは感じられた。
「え、これ……使っていいの?」
「うん、俺はもう一本持ってるし、今日はもう帰るだけだから」
「そう、ありがとう」
 そのときに彼女が見せた、屈託のない笑顔が「ああ、行ってよかった」と俺に思わせてくれた。

「それで、どうだったの?」
 家に帰ると、すぐさま姉が占いの結果を聞いてきた。
「えーっと……友達がね、傘持ってくるの忘れたらしくてさ。貸してあげたら感謝されたよ」
 思い出しニヤケを隠しながら、俺はそう報告した。間違ってない、間違ってない。
「そう! やっぱりあたしの占いって本物ね!」
 ……今回ばかりは同意しておきたい。
 経過がどうあれ、予期せぬ素晴らしいイベントをもたらしてくれたことには、素直に感謝せざるを得ないと思ったから。
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壬生沙樹

Author:壬生沙樹
通称みぶさき。
イラスト頑張るとか言っておきながら、滅多にイラスト上げないとかいううつけものです。

http://www.pixiv.net/member.php?id=877455
いちおーpixivやっとります。


現在は勉強の傍ら、イラスト、文芸に熱中。ただし、実力は伴っていませんとも。


一応某同人ゲームサークルの原画担当。
いつか派生して、個人企画でのコミケのサークル参加をひそかに画策中。
好きな言葉は初志貫徹。
嫌いな言葉は三日坊主。

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